【前編】ふるさと納税九州サミットin大隅半島 ~地域ブランド力の向上~

2018.04.09

鹿児島県大隅半島

2017年9月22日(金)・23日(土)。トラストバンクは鹿児島県大隅半島の4市5町と共催で、ふるさと納税による「地域ブランド力の向上」をテーマに「九州サミット」を開催しました。先進自治体による取り組み紹介の様子をお伝えする「前編」です。

基調講演『ふるさと納税の最新動向と地域ブランド』 
株式会社トラストバンク 代表取締役 須永珠代

地域ブランド化とは、「地域発の商品・サービスのブランド化と地域イメージのブランド化を結び付け、地域外の資金・人材を呼び込むという好循環を生み出し、持続可能な地域経済の活性化を図ること」です。まさに、ふるさと納税は地域ブランド化に適していると思います。

東京にいると、うなぎの名産地は静岡というイメージがありましたが、鹿児島もうなぎの名産地であることは知りませんでした。きっと寄附者も同じように感じ、それによって鹿児島県はうなぎが有名といった地域イメージのブランド化は少しずつ出来はじめているのではないかと思います。

地域ブランド化に必要なのは、地域住民の意識と事業者の熱意だと言われています。ふるさと納税に自治体が頑張って取り組んだことで、新しい市場ができたように、熱意があれば地域ブランド化は実現するはずです。ほとんどリスクのないチャレンジだと思うので、ぜひ一緒に頑張りましょう。

『ふるさと納税の資金により創業した主婦の物語 ~心優-CotoyuSweets-の挑戦~』

心優-CotoyuSweets小値賀 布美華さん
株式会社トラストバンク(派遣元:長崎県平戸市)黒瀬 啓介

黒瀬:平戸市は、ふるさと納税を活用した創業支援に取り組んでいます。起業を考えている人、もしくは創業5年以内の人を対象とした、平戸経営塾や戸別創業相談会を実施。この2年間でセミナー参加者は64名、個別相談会は73名、うち実際に起業したのは13社にのぼりました。人口約3万人の町でこれだけ起業家が生まれたのは、ふるさと納税があったからこそだと思っています。

小値賀さんも、その起業家の1人ですが、幼い2人のお子さんを育てながら起業しようと思ったきっかけを教えてください。

小値賀:きっかけは母になったことで危機感を持つようになったからです。人口は物凄い勢いで減少しており、子どもたちが大人になったとき、少子高齢化で過疎化が進んでいる平戸では生きていけないのではないかと思いました。平戸は島なので、そこにいたら狭い価値観の中で生きることになります。だけど今はいろんな生き方を選択できる世の中ですから、自分自身が決断しなければリスクを負うのは子ども世代。自分が変わるしかないと思い、起業を考えました。

黒瀬:実際、起業する際の後押しになったのは何でしたか?

小値賀:スイーツで起業したいと決めたのはいいけど、私には資金がありませんでした。それを後押ししてくれたのは、ふるさと納税制度です。平戸市が起業支援制度を立ち上げてくれて、これしかないと思いましたね。

しかも、お金の支援だけではなく、中小企業診断士が個別フォローをしてくれて、経営のイロハも分からない私に、実質的なマーケティングデータを教えていただきました。知識も資金も人脈もなかった私ですが、助成制度とプロの方がついてくれたおかげで起業できました。

黒瀬:最初、小値賀さんが南部地域に出店されると聞いたときは、「何もない田舎だし、絶対に厳しい」と思いました。だけど、オープン前からメディアに取り上げられて、オープンすると売り切れ続出でしたね。

小値賀:最初からインターネットで売ることを視野に入れていました。私がメディアになればいいと思い、1日3記事以上をSNSで書き続けることでファンができたのが大きかったです。また、偶然私の投稿を見たメディアの方が密着しに来てくれたり、取材に来てくれたりするようになりました。インターネットでアピールしないのは、機会損失でしかないですね。

黒瀬:情報発信力は特に地方に欠けていることだと思います。その点、小値賀さんは情報発信を続けたことで、平戸に無かったものを生み出しました。ふるさと納税の返礼品でも人気商品です。ふるさと納税の市場は事業者にとってどんな意味がありますか?

小値賀:いろんな要素が掛け合わされている市場だと思います。一つが平戸市という信頼が最初からあること。知らない人がスイーツブランド立ち上げたから買ってくれと言ったところで、誰も買わないですよね。だけど、ふるさと納税の場合は、平戸市のスイーツブランドという見せ方ができるので、新規事業者にとってはありがたいことだと思います。

それから、平戸市はふるさと納税の特設サイトとカタログがあり、そこに月2回新商品を出品できるので、毎月出品しながらテストマーケティングができたのはとても良かったです。作った商品が受け入れられるのか、受け入れられなければ何がいけないのかなど、高速でPDCAを回していきました。

そうして生まれたのが、平戸の生乳を使ったキャラメルブリュレです。お客様に受け入れられる商品は何かを模索し続けた結果、キャラメルブリュレは掲載当初から売上1位になり、今では主力の通年商品になっています。

黒瀬:地域ブランドを高める上で、事業者にとって必要なこととは何だと思いますか?

小値賀:地域内にいると、外の人が何に魅力を感じるのかが分かりません。だから、外部情報と内部情報を同時に得て、それを掛け合わせることが大事だと思います。

黒瀬:事業者としての立場で、ふるさと納税が地域活性化の一端を担っていることを寄附者に発信したいと思いますか?

小値賀:私はふるさと納税の寄附金を使って創業しました。それによって次の循環を生んでいることを、寄附者の方に伝えないといけないと思っています。事業者も自治体も寄附者も、日本を盛り上げるためのチーム。きちんと伝えていきたいです。

『ふるさと納税を通した事業者支援について』

トークセッション
株式会社トラストバンク(派遣元:長崎県平戸市)黒瀬 啓介
心優-CotoyuSweets小値賀 布美華さん
鹿児島県志布志市 港湾商工課ふるさと納税推進室 主任主査 紙屋健一さん
鹿児島県大崎町 企画調整課 係長 竹原静史さん

黒瀬:平戸市では、ふるさと納税を活用した創業支援などに取り組んでいますが、大崎町と志布志市は、事業者や生産者支援のために実施していることはありますか?

かみや:平成28年度は特産品協会を中心に、加盟している事業者約50社に定期セミナーを実施しました。平成29年度はもっと飛躍するために、リスクマネジメントやフードコーディネーターなど専門家集団に来てもらい、講演してもらっています。

竹原:大崎町では、事業者さんから自発的に提案いただいてセミナーを開催しています。ふるさと納税をきっかけに、今までまったくできなかった創業支援や空き店舗対策、人材育成に補助金を活用できています。もともと自発性はあまりなく、PRもほとんどしてこなかった大崎町ですが、創業支援の補助金を出して何か始めるきっかけができたことで、新しい特産品が生まれ、町が元気になり始めています。

かみや:志布志市も、ふるさと納税が始まるまでは、事業者同士で気軽に話す雰囲気はありませんでした。今ではセミナーを定期開催することで顔見知りになり、相談できるような土壌ができています。

黒瀬:ふるさと納税以外の市場での流通に対して、どんな施策を展開していますか?

竹原:事業者さんからは、販路を拡大したいという声がたくさんあがっています。そこで、道の駅での販売を始めました。ふるさと納税の返礼品市場以外でも売れることが分かり、最近では他のECサービスにも展開しています。少しずつですが、収益につながり始めています。

かみや:志布志市は、大手百貨店とタイアップしています。バイヤーさんは消費者目線で意見をしてくれるので、それを事業者さんがどう捉えるかで次の展開が見えてくるのかなと思っています。他には、関東・関西圏のレストランと提携して、志布志市の食材を使ってもらっていますね。

黒瀬:平戸市も首都圏展開に力を入れていて、10年くらい取り組んでいます。恵比寿の三越にアンテナショップを展開したり、居酒屋を展開したりしています。ただ、東京に来て痛感するのは、進化のスピードが全然違うこと。情報発信の仕方をもっと考えないといけないなと思っています。

『世界に誇れる鹿児島の食文化』 株式会社樹楽 代表取締役社長 梛木 春幸氏

私は地産地消を掲げ、板前の立場で食育をしています。

板前として最初に勉強に行ったのは、京都の嵐山にある料亭。宮内庁御用達の料亭で、一流の食材を使った料理を作っていました。しかし、地元・鹿児島県に戻って知ったのは、京都の料亭で扱っている食材よりもはるかに良いモノがたくさんあるという事実。本当にもったいないことをしていて、質のいいものをみんなで安売りしている現状をどうにか変えたいと思いました。それだけ、大隅地区は食材の宝庫なのです。

私は3年連続フランス大使館に呼ばれて料理長として日本料理を振る舞っています。その中で、フランスの三ツ星レストランのシェフたちが、「このレシピを教えてくれ、こんなに美味しいモノは無い」と言われたのが、浸け揚げでした。「この日本料理は世界一だ」と。なぜこんなにも素晴らしい食文化を持った国なのに、日本人はフレンチやイタリアンなど外国の料理ばかり食べるのかと言われ、日本人として恥ずかしいと思いましたね。ただ、フランスで日本の素晴らしさ、鹿児島の素晴らしさを教えてもらいました。

私はいま、桜島の灰で灰干しを作っています。そのきっかけとなったのは、地元・薩摩半島で一次産業に就いている親世代の言葉でした。就職で地元を離れていた40代世代が、「そろそろ帰ろうかな」と言うと「収入が少ない仕事だから帰ってくるな」と言われている。これはとても問題で、どうにか生産者の力になりたいと思ったのです。

そんなとき、ある漁師さんから「魚が10釣れたら5匹は捨てる」という話を聞きました。1キロ50円以下の魚は水揚げすると赤字になるから海に捨てて帰ってくる。だから息子にはこんな仕事させたくないと言っていたのです。

そこで私は、1キロ50円以下の魚を350円で買い取り、灰干しにして売り出すことを考えました。和歌山県に灰干しをやっている人がいたので話を聞きに行くと、「鹿児島の桜島の灰を直送してもらっているから、美味しい灰干しができる。なぜ鹿児島の人は灰を使わないのか不思議だ」と言われました。

これはチャンスがあると思い、鹿児島に帰って、灰干しをやろうと声をかけましたが、賛同する人はゼロ。そこで、今から6年前に、1人で灰干しを始めました。これは自分だけが儲かるシステムではなくて、漁師さんも儲かるシステムだから絶対に注目されると宣言して。あれから6年が経ち、有名なテレビ番組に取り上げられ、売上は約7倍になりました。

最近では、県内のいろんな人たちが灰干しをやるようになりました。このまま鹿児島県の特産品になればいいなと思い、鹿児島中央駅で灰干し弁当を売り出しています。この灰干し弁当は非常に人気で、駅に約70種類の弁当がある中で、売上は59か月連続1位。駅に出した瞬間から、ずっと1位を保っています。

ちなみに、なぜこんなにも売れるのか不思議に思い、しばらく売り場に立って様子を観察したことがありました。すると、買いに来るのは男女ペアが多く、女性に決定権があって灰干し弁当を選んでいたのです。女性に選ばれなければ売れないことを実感しましたね。

私が最終的に目指しているのは、たくさんの人に大隅半島に来てもらうことです。そのきっかけになるのは、名物料理。それも、1件のお店が提供するのではなく、町の食材を使って、町の飲食店みんなが同じ定義で名物料理を提供する地域にしたい。品数が多く、地域の旬のものがあり、地域ならではのストーリーや文化がある名物料理があれば、きっと1時間かけてでも食べに行きたいと思ってもらえるはずです。生産者も飲食店も、食品製造会社も行政も一緒になって、一つの特産を作り上げたいですね。

最後に、いろんな市町村に呼びかけているけど、まだ誰もやっていないことをお話しします。それは、地方の飲食店で煮しめを作ること。たとえば、鹿児島県内各市町村、各集落で煮しめの作り方や味は違います。煮しめには、各地域で伝承されている文化や伝統があるんですよね。これは、東京や大阪に真似ができない、地方の田舎にしかできないことだと思うのです。

田舎の古民家で煮しめを出す店があれば、いくら遠くても僕は行きたい。それに、ちゃんとした煮しめが作れるのは65歳以上と言われているので、あと何十年かしたらまともに作れる人がいなくなるかもしれません。そういった日本の食文化を伝承して、引き継ぐ人が増えたらいいなと思っています。

大隅半島は食の宝庫です。都会に真似できない食文化を武器に名物料理をつくり、「美味しいモノを食べに大隅半島に行こう」という動機をつくり、たくさんの人が行き交う町にしたいと思っています。


※後編はこちら

text by
鹿児島県大隅半島

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