伝統工芸「将棋駒」の市場規模が2倍以上に。ふるさと納税によるドラスティックな変化とは

2017.06.28

山形県天童市

世界に誇れる日本の文化、「伝統工芸」。それは、熟練した手技が必要な長い歴史を持つ工芸で、陶磁器、漆器、和紙、染織品、木工品など、数多くの美しい伝統工芸品があります。しかし、多くの伝統工芸で大きな課題となっているのが、後継者不足。山形県天童市の伝統工芸「将棋駒」は、ふるさと納税でいただいた寄附金の使い道として、後継者確保と育成に役立てています。具体的にふるさと納税が伝統工芸産業にどう影響したのか、天童市の沼澤賢次さんにお話を伺いました。

※記事の最後に、職人のインタビュー動画がございます。ぜひご覧ください!

将棋のまち天童。課題は後継者不足

将棋駒の約9割を生産する天童市は、160年以上の歴史を持つ将棋駒のまちです。市内の至るところに将棋駒のオブジェがあり、春には市内中央部にそびえる舞鶴山の山頂で、人間を将棋駒に見立てプロ棋士が対局する天童桜まつり「人間将棋」が開催されるほか、放課後児童クラブでは子どもたちが将棋を指したり、地域の公民館で将棋教室が行われるなど、将棋は天童市民の生活に溶け込んでいます。

職人たちの作る、彫駒・書き駒・盛上駒などの将棋駒は国の伝統的工芸品に指定されており、特に最高級とされる盛上駒は、手に持つことすら遠慮してしまう美しい工芸品。まさに匠の技の結晶です。

しかし、他地域の伝統工芸と同様、天童市も将棋駒の後継者がいない・足りないという危機的状況に直面しています。2〜3年で習得できるような技術ではなく、このままでは将棋駒産業は衰退してしまうかもしれない……。

そんな、天童市にとって非常に大きな問題をドラスティックに変え始めているのが、「ふるさと納税」です。

将棋駒の産業規模が2倍に。誰も想像しなかった活況

天童市では、平成26年から将棋駒産業と一次産業という2つの地場産業の振興を図るために、ふるさと納税にお礼の品を取り入れました。当時、全国的に人気だったお礼の品は、肉・米・酒。肥育頭数が少ない肉では勝負できないし、米はいろんな地域で生産しています。

そこで、天童の特産であるラ・フランスやさくらんぼなどのフルーツを全面に押し出し、いろんなフルーツをいろんな時期に選べるようにしたところ、これが功を奏しました。当初、年間100件あればいいかなと思っていたら、たった1日で100件を超えたんですよね。

天童市役所 沼澤賢次さん

天童市役所 沼澤賢次さん

さらに、返礼品のおまけにご希望の名を彫ったオリジナルの将棋駒ストラップも送るようにしました。名前入りの駒は寄附の思い出になりますし、伝統工芸を直接支援することにもなる。すると、受け取った方から「家族全員分揃えたい」「孫が生まれたので、名前入りの駒をプレゼントしたい」「次はフルーツではなく将棋駒を申し込みます」と言った連絡を非常に多くいただくようになったのです。

結果、ふるさと納税を始める前と後では将棋駒の産業規模が倍以上になりました。返礼品としての申し込みはもちろん、直接、職人の工房に連絡をして購入する方や、実際に天童市まで来て買いに来る方も増えたのです。

具体的には、平成25年の産業規模が約1.2億円だったのに対し、平成27年は約3億円に。職人の皆さんは、受注が5割増しになったり、ほとんど休みなく駒を作ったりと、これまでに前例のないほどの活況で、手が回らないほどでした。生産が追いつかないという大変な状況もありましたが、これは嬉しい悲鳴でしたね。

いただいた寄附を後継者確保に活用

こうしていただいた寄附によって、天童市では後継者の育成と将棋人口の拡大という2つの課題解決のための取り組みを加速させることができています。

5年コースで学ぶ後継者育成講座の開催や、書き駒の実演、将棋人口の拡大を図るためのイベントなどを実施。最近では、将棋を題材にした人気漫画「3月のライオン」とのコラボや、幕張メッセで開催されたニコニコ超会議2017への協賛・出店など、若年層の将棋ファンを増やす取り組みも進めています。

特に3月のライオンの効果は大きく、「3月のライオンを見て天童市を知りました。将棋に興味を持ちました」という寄附者からの声をたくさんいただいています。そこに、注目の中学生棋士・藤井四段(H29年6月現在)の活躍が、今まさに将棋と天童市の追い風になっています。

とはいえ、後継者問題が解消されたわけではありません。今ようやく、ふるさと納税でいただいた寄附によって、解決につなげるための施策を打てるようになったというところで、後継者の確保と育成には、まだ深刻な課題を抱えたままなのです。

伝統工芸を若い世代へ

天童市に限らず、日本各地には地域に根ざした伝統工芸が沢山あります。それは、長い歴史とともに、職人の手によって大切に作られてきた、世界に誇れる技。これを継承していくためにも、伝統工芸は若い世代が入ってきて成り立つ産業にしていくべきだと思っています。

地元の子どもたちが職人の仕事姿を見たり体験したりできる場ができて、「この仕事はかっこいい。将来は、職人になりたい」と思ってくれたらうれしいですね。

2017年に入り、将棋の指し駒セットは前年度同期比の倍以上の申し込みがあり、将棋人口を拡大させている手応えを感じています。ふるさと納税がなかったらここまで将棋ファンを増やせていなかったでしょうし、後継者問題に対応する資金を、ここまで捻出できなかったでしょう。

この人気を一過性で終わらせないよう、これからも天童市は後継者確保と将棋人口の拡大という2つの課題を解決することで、「将棋駒のまち天童」にふさわしい、美しい将棋駒の技術を後世にまで残していきたいです。

動画出演の職人紹介(最後に動画があります)

盛上師 桜井和男(雅号:掬水)
天童将棋駒伝統工芸士会・会長。最高級品である美しい盛上駒をつくる伝統工芸士。書き駒から始め、漆の技術を高めて盛上師へ。職人歴47年。

盛上師 桜井亮(雅号:淘水)
掬水氏のご子息で、同じく最高級品をつくる盛上師の伝統工芸士。19歳でこの道に入り、現在職人歴21年目。

彫り師 國井孝(雅号:天竜)
機械彫りが主流の中、下書きをせずに直接木地に文字を彫るという、唯一無二の技術を持つ伝統工芸士。こだわりは、深さと太さと早さ。13歳のころから遊びで彫り始め、中学を卒業と同時に彫り師として独立。職人歴67年。

木地師 中島清吉商店 4代目 中島正晴
手彫りの将棋駒や将棋盤、飾り駒などを生産・販売している中島清吉商店。明治10年から代々続く家業で、正晴氏が4代目の木地職人。

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